「陸上養殖って、どんな方法で魚を育てているんだろう」「陸上養殖のやり方を知りたい」と考えている方は多いと思います。
陸上という名前のついた養殖方法だからこそ、どうやって魚を育てているのかはいまいちピンとこないですよね。
今回は、陸上養殖の主な方法として「かけ流し式」と「閉鎖循環式」についてお話します。
さらに、陸上養殖を始める際に準備しておきたいものや、必要な費用もご紹介するので、最後までじっくり読んでみてください。
陸上養殖は2つの方法がある
陸上養殖の方法としては、「かけ流し式」と「閉鎖循環式」の2つに分けられます。
こちらでは、かけ流し式と閉鎖循環式の概要についてお伝えしていきましょう。
かけ流し式の特徴
かけ流し式とは、海や川の水をポンプを使って陸にある水槽に取り入れ、養殖する方法のこと。(参照:水産庁)
水槽の汚れた水は定期的に排水しながら、天然環境から継続的に飼育水を引き込み魚類を育てていきます。
国内ではヒラメ・トラフグ・アワビなど、そして海外では東南アジアのエビなどを養殖する際に、用いられている方法です。
閉鎖循環式の特徴
閉鎖循環式とは、ろ過システムを使用して水槽内の飼育水を浄化しながら、循環利用して養殖する方法です。(参照:水産庁)
水族館と同じような仕組みと考えてもらうと、わかりやすいかもしれません。
国内ではトラフグやバナメイエビなど、海外ではアフリカナマズやヨーロッパウナギなどを養殖する際に、用いられています。
【陸上養殖の方法1】かけ流し式のメリット・デメリット
かけ流し式陸上養殖の特徴を押さえるため、メリットとデメリットについても触れていきましょう。
メリット
かけ流し式陸上養殖のメリットは、以下の通りです。
- イニシャルコストが低い
- 飼育難易度が低い
海・川から飼育水を汲み上げ、汚れた水を排出するかけ流し式陸上養殖は、閉鎖循環式と比べて少ない機材で始められるため、イニシャルコストが小さいといえます。
シンプルなシステムで始められるからこそ、飼育難易度が低いこともメリットの1つでしょう。
デメリット
かけ流し式陸上養殖のデメリットは、以下の2つが考えられます。
- 飼育に適した水を手に入れるのが困難
- 環境汚染につながる可能性あり
現在、海水や河川の水が汚染されている地域もあるため、天然の水を使うかけ流し式陸上養殖は、場所を選ばなければいけません。
また、飼育時の汚水を海などに流すことから、環境汚染につながることが問題視されています。
【陸上養殖の方法2】閉鎖循環式のメリット・デメリット
こちらからは、陸上養殖2つ目の方法である閉鎖循環式について、メリットとデメリットを解説します。
メリット
閉鎖循環式陸上養殖のメリットは、以下の通りです。
- 飼育環境をコントロールしやすい
- 海洋汚染を起こさない
- 健康的な魚を育てられる
陸上の閉鎖空間で行う閉鎖循環式陸上養殖は、外部からの影響を受けづらいため、飼育環境をコントロールしやすかったり魚種の制限を受けづらかったりといった利点があります。
汚れた水も装置によってろ過され、また水槽内を循環するので、外部に排水することなく海洋汚染も起こしません。
加えて、外部の水を使用しないからこそ、疫病混入リスクがなくなり、健康で安全な魚を育てられます。
デメリット
閉鎖循環式陸上養殖のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- イニシャルコストやランニングコストが高い
- 徹底した水質維持が必要
かけ流し式陸上養殖と異なり、使用する機材が増えるので、設備や運用コストはどうしても高くなりがちです。
また、汚水を外部に排出しないことから、徹底した水質維持を行なわなければ排泄物などによって病気が蔓延するリスクもあります。
陸上養殖を始めるときに準備するもの
陸上養殖を始めるときには、以下のようなものが必要です。
- 水槽
- 物理ろ過
- 生物ろ過
- 殺菌装置
- 循環ポンプ
- 水温調節機
飼育する魚種などによっても必要な機材は変わってくるので、参考として確認してみてください。
水槽
陸地で養殖するからこそ、水槽は必ず用意しなければいけないものの1つです。
耐熱性・剛性に優れているものや、薬剤を使用しても問題ないものを選ぶと良いでしょう。
屋外で使用する場合は、紫外線に強いものを選択すると安心です。
物理ろ過
物理ろ過とは、フィルターで飼育水中の汚れを取り除くろ過方式です。
排泄物やエサの残りなどを放置すると、水質が汚染されてしまうので、物理ろ過を行う必要があります。
物理ろ過に用いられるフィルターは、ウールマットやバッグフィルター、マツイバイオフィルターなど様々なので、自社の陸上養殖に適したものを選びましょう。
生物ろ過
生物ろ過は、バクテリアの力を借りて行うろ過方法です。
物理ろ過で目に見えるゴミを取り除いたとしても、アンモニアを筆頭とした目に見えない物質は潜んでいるもの。
特に、排泄物やエサの食べ残しから発生するアンモニアは有毒なので、生物ろ過によって毒性の低い物質に変換しなければいけません。
生物ろ過の準備をする際は、セラミックス製のろ材やゲルろ材など、バクテリアの住みやすい小さな穴の空いたろ材を選んでみてください。
殺菌装置
流水中に浮遊するカビや藻類などを死滅させるため、殺菌装置も検討していきましょう。
殺菌装置は紫外線の照射を利用するものから、電気分解やオゾンによって行うものまで様々です。
思い描いている陸上養殖のプランを意識しながら、最適なものを選定しましょう。
循環ポンプ
循環ポンプとは、液体を循環させるために用いられるポンプであり、閉鎖循環式陸上養殖を行うときに必要となる用具です。
海水を使用するときは、サビに強いものかどうかを確認しておきましょう。
水温調節機
水槽内の温度を一定に保つ水温調節機も、陸上養殖を成功させるために必ず用意しなければいけないものです。
常に一定の水温を保つことによって、いつでも魚類を出荷できる陸上養殖ですが、裏を返せば水温によって全滅する可能性があるということ。
低水温から高水温まで、高い精度で調節できるものを選び、安定生産につなげましょう。
陸上養殖にかかる費用
陸上養殖にかかる費用は、魚種や設備によって大きく異なります。
例えば、山梨県の住宅街でエビの陸上養殖を成功させた方は、3億円の費用がかかったと話していました。(参照:UTYテレビ山梨)
一方、NHKでは、小型化によって500万円ほどから導入できるユニットもあることが公表されています。
どうしても初期費用やランニングコストはある程度かかってしまうので、コスト削減を追求することで、費用対効果の高い陸上養殖を行えるでしょう。
まとめ
今回は、陸上養殖の主な方法として「かけ流し式」と「閉鎖循環式」についてお話しました。
陸上養殖を始めようか検討している方は、かけ流し式と閉鎖循環式のメリット・デメリットを比較しながら、自社に適した方法で進めていきましょう。