食の未来を変える培養肉、知られざる問題点とその課題

食の未来を変える培養肉、知られざる問題点とその課題

培養肉とは、動物の細胞から作られる人工肉のことです。近年、技術の進歩により、培養肉は食料生産の新たな可能性として注目を集めています。この記事では、培養肉の基本的な概念から、代替肉との違い、作り方、安全性、そしてそのメリットと課題について詳しく解説します。また、日本企業の取り組みや未来の展望についても触れ、培養肉が私たちの食生活にどのような影響を与えるのかを考察します。

培養肉は、従来の畜産に比べて環境負荷が少なく、持続可能な食料生産の一環として期待されています。特に、人口増加による食料危機への対応策として、その重要性が増しています。しかし、技術的な課題やコスト、安全性の問題も多く、まだ解決すべき点が多いのも事実です。

この記事を通じて、培養肉についての理解を深め、未来の食の選択肢としての可能性を一緒に探っていきましょう。

目次

代替肉と培養肉の違い

代替肉とは、植物性の原料から作られた肉のような食品のことです。例えば、がんもどきやお麩は代替肉の一つであり、これらは家庭のキッチンでも簡単に作ることができます。代替肉は街中の飲食店でも少しずつ普及してきており、ヴィーガンバーガーや大豆ミートの唐揚げなどが人気です。代替肉の原材料は豆や小麦たんぱくなどで、植物性食品に分類されます。動物由来の成分が添加される場合もありますが、基本的には植物性の成分で構成されています。

一方、培養肉は動物の細胞を主原料とした食品で、専門的な設備や知識がなければ作るのは難しいでしょう。培養肉は動物の体の一部を使うため、ヴィーガンではありません。培養肉は「クリーンミート」や「ラボミート」とも呼ばれ、動物の細胞と培養液を使用して作られます。細胞性食品に分類され、牧場ではなく研究室や工場で生産されます。培養肉はまだ一般販売が認められていない国が多いですが、シンガポールなど一部の国ではすでにレストランで提供される事例もあります。

なぜ培養肉に注目が集まっているのか?

培養肉は主に人口の増加による食料危機への対応策として期待されています。世界の人口は80億人を突破しており、2050年には97億人に達する見込みです。現在すでに8億人もの人々が飢餓に苦しんでいるといわれているなか、私たちはいかにして十分な食料を生産するかが課題となっています。人口の増加にともない、食用肉の需要は今後ますます高まることが予想されます。

畜産による食用肉の生産は広大な土地を必要とする一方で、培養肉による生産は土地を広く必要としません。ある研究によると、培養肉の生産は畜産による生産と比較して99%少ない土地で生産できるかもしれないとの試算もあり、サステナビリティの観点から注目を集めています。培養肉は、世界の食用肉の需要を満たせる可能性を秘めていることから、持続可能な開発(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」達成への貢献が期待されています。また、生産に広大な土地を必要としないことから、目標13「気候変動に具体的な対策を」や目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成への貢献も期待できます。

培養肉の作り方

培養肉はラボや工場で作る人工肉です。というと、なんだかあまり良い気がしないかもしれませんが、作り方や使用する材料はさまざまありますので、ここではおおまかな流れを説明します。

STEP
動物から細胞を採る

最初のステップは細胞の採取です。生きている動物、もしくは解体したばかりの肉から針やメスなどで幹細胞を摘出します。幹細胞は、特定の条件下でさまざまな細胞に分化する能力を持つため、培養肉の基礎となる重要な要素です。採取された細胞は、無菌状態で保存され、次のステップに進みます。

STEP
栄養を与えて細胞を増やす

家畜がエサを食べて育つように、培養肉を大きくするには栄養が必要です。採取した細胞は、まず培地で培養され、少し成長したらバイオリアクターと呼ばれる大きなタンクに移されます。バイオリアクターは、細胞を大量増殖させるための装置です。この中には栄養として培養液が入っており、細胞に偏りなく行き渡るよう混ぜ続けます。培養液の成分はアミノ酸や糖などです。成長を促すために、ウシ胎児血清(牛の胎児の血液でできた血清:FBS)を使うこともあります。

STEP
肉らしい形にする

細胞が増えたら次は形成作業です。ステーキのような分厚く噛み応えがある形にするのはまだ難しいようですが、3Dプリンターを使うなどして立体感や繊維質などを再現する技術開発が進められています。3Dプリンターは、細胞を特定の形に積み重ねることで、肉の繊維や質感を再現するための重要なツールです。これにより、培養肉は見た目や食感が従来の肉に近づくことが期待されています。

培養肉の作り方は、技術の進歩とともに日々進化しています。今後、さらに効率的でコストを抑えた方法が開発されることで、私たちの食卓に培養肉が並ぶ日も近いかもしれません。

培養肉は動物福祉の観点からも注目されている

培養肉は、環境への負荷を減らし、動物福祉の観点からも注目されています。従来の畜産業では、大量の水や飼料が必要であり、温室効果ガスの排出も問題となっています。しかし、培養肉はこれらの問題を解決する可能性を秘めています。

例えば、培養肉の生産には、従来の畜産に比べて水の使用量が大幅に少なくて済むと言われています。また、土地の利用も最小限に抑えられるため、森林破壊や土壌劣化のリスクも低減されます。さらに、動物を飼育する過程で発生するメタンガスの排出も抑えられるため、地球温暖化の防止にも寄与することが期待されています。

一方で、培養肉の生産にはまだいくつかの課題が残っています。例えば、コストの問題です。現在の技術では、培養肉の生産コストはまだ高く、一般消費者に手が届く価格にはなっていません。しかし、技術の進歩とともにコストが下がり、将来的にはスーパーの棚に並ぶ日も遠くないかもしれません。

また、消費者の受け入れも重要な課題です。培養肉がどれだけ従来の肉に近い味や食感を再現できるかが鍵となります。現在、多くの企業や研究機関がこの分野での研究を進めており、日々新しい技術が開発されています。例えば、3Dプリンターを使った肉の形成技術や、植物由来の成分を使った培養液の開発などが進められています。

培養肉は、私たちの食生活に革命をもたらす可能性を秘めています。環境への配慮や動物福祉の観点からも、その意義は大きいでしょう。今後の技術の進展に期待しつつ、私たちも新しい食の選択肢として培養肉を受け入れる準備をしておくことが大切です。

培養肉の安全性

培養肉の安全性については、現在さまざまな議論がなされています。WHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)は2023年4月に安全性に関するリポートを発表しました。このリポートでは、食品安全上の懸念されるハザード(危険性や有害性)や各国の規制について述べられています。具体的には、培養肉の製造過程で使用される培養液や添加物が人体にどのような影響を与えるか、また製造環境の衛生管理がどの程度確保されているかが重要なポイントとなっています。

日本国内における培養肉の安全性

日本では、2023年12月に厚生労働省が「いわゆる『培養肉』に係るこれまでの状況等」を公表しましたが、安全性の条件については引き続き情報収集中です。令和4年度より厚生労働科学研究「フードテックを応用した細胞培養食品の先駆的な調査検討による食品衛生上のハザードやリスクに係る研究」が進められており、細胞培養食品の安全性確保のための知見について情報収集および研究が行われています。一部の国ではすでに販売許可が下りていますが、食べても安全かどうかはまだ未知数といったところです。

培養肉の安全性に関するもう一つの重要な側面は、アレルギーや食中毒のリスクです。従来の畜産肉と同様に、培養肉もアレルギーを引き起こす可能性があります。特に、培養液に使用される成分や添加物が新たなアレルゲンとなるリスクが指摘されています。また、製造過程での衛生管理が不十分であれば、細菌やウイルスの繁殖による食中毒のリスクも考えられます。これらのリスクを最小限に抑えるためには、厳格な規制と監視が必要です。

培養肉の健康への影響

培養肉の長期的な健康影響については実のところ、まだ十分に解明されていません。従来の食肉と異なる製造過程を経ているため、長期間にわたって摂取した場合の影響については、さらなる研究が求められます。例えば、培養液に含まれる成分が長期的にどのような影響を及ぼすか、また培養肉自体がどの程度の栄養価を持つかについても検討が必要です。

このように、培養肉の安全性についてはまだ多くの課題が残されていますが、各国の研究機関や企業が日夜研究を進めています。安全性が確保されれば、培養肉は新たな食の選択肢として広く受け入れられる可能性があります。

培養肉の安全性についての議論は、今後も続くことでしょう。特に、消費者の関心が高まる中で、透明性のある情報提供が求められます。培養肉の製造過程や使用される成分について、消費者が安心して選択できるような情報が提供されることが重要です。

培養肉のメリットと課題

培養肉は、食糧危機の対策として注目を集めています。

食糧性の多様化

まず、食料生産の多様化が挙げられます。2050年の世界の食料需要量は2010年と比べて1.7倍にのぼると予想されています(参照:世界の食料需給の動向 p.6|農林水産省)。高まる需要に応えるためには、何とかして食べ物を確保しなければなりません。しかし、家畜を育てるには大量のエサや広大な土地が必要なうえ、海洋生物は乱獲や温暖化などの影響で数が劇的に減っているといわれています。培養肉であれば、大量のエサや広大な土地を必要とせず、また生産方法が体系化されれば大量生産も可能です。そのため、食料供給の新たな可能性として期待されています。

水資源の保護

次に、水資源の保護です。畜産には大量の水が必要です。従来の方法では牛肉を1kg生産するために約1万5000L近い水が使われます(参照:The green, blue and grey water footprint of farm animals and animal products p.29|M.M. Mekonnen A.Y. Hoekstra)。牛は一日に数十kgも水を飲むうえ、エサとなる穀物や牧草を育てるにも水が欠かせないからです。培養肉の生産にどの程度水が必要かについて、2011年にオックスフォード大学とアムステルダム大学が共同研究した結果によると、ヨーロッパの場合は従来の方法で生産された畜産肉と比べて水の使用量が82~96%ほど削減されると推定されています(参照:Lab-grown meat would ‘cut emissions and save energy’| University of Oxford)。実際に社会実装してみないとわからない点はあるものの、培養肉が広まれば水資源の節約につながるでしょう。

培養肉の課題

一方で、培養肉にはいくつかの課題も存在します。まず、コストの高さが挙げられます。培養肉はまだまだ高価です。大量生産する方法が確立されているわけではなく、技術開発は手探りの状態で進められています。私たちがいつも買っている肉よりも価格が高ければ、消費者の多くは購入するメリットを感じないでしょう。商品には慣習的な価格というものがあります。慣れ親しんだ安い肉と高い培養肉が並んでいたら、とりあえずいつもの安い肉を買うと考えられます。価格は培養肉を普及させるうえで乗り越えなければならない壁です。

次に、製造にエネルギーが必要な点です。細胞を決められた温度に保ったり、バイオリアクターで混ぜ続けたりするためには電気が欠かせません。庭先の鶏なら電気を使わずとも勝手に育ってくれますが、培養肉はなかなかデリケートです。エネルギーを大量に消費していては持続可能な生産方法とは言い難いでしょう。再生可能エネルギーを使用するなどして、よりクリーンな方法で培養肉を生産することが求められます。

最後に、ウシ胎児血清(FBS)使用の是非です。もし動物の命を奪わないことを培養肉使用の目標にするのであれば、培養液の成分の見直しも必要です。細胞の成長を促すため、培養液には牛の胎児の血から製造した血清を使用することがあります。これはウシ胎児血清(FBS)と呼ばれています。とても高価なため、培養肉のコストを上昇させる原因になります。アニマルウェルフェアの観点からも使用をやめる企業が増えています。

日本企業の取り組みと未来の展望

日本ではまだ培養肉の一般販売は認められていませんが、商用化に向けた研究が進められています。ここでは国内企業の取り組み例を三つ紹介します。

日清食品ホールディングス

まず、日清食品ホールディングスです。同社は培養ステーキ肉の研究に取り組んでおり、東京大学との共同開発のもと、厚みのある肉らしい食感を追求しています。2019年にはサイコロステーキ状のウシ筋組織の生成に世界で初めて成功しました。また、研究用ではなく食べられる素材での作製も始め、2022年3月には研究関係者が実際に試食しています(参照:研究室からステーキ肉をつくる。|日清食品ホールディングス株式会社)。

ダイバースファーム

次に、ダイバースファームです。同社はバイオベンチャー企業であるティシューバイネット社と、ミシュラン一つ星の懐石料理店「雲鶴」が設立したスタートアップ企業です。経営には鶏の生産者である阿部農場も加わっています。同社は機能面や安全性を高めた培養肉を提供する事業者として、タネ細胞用の動物の飼育、再生医療の技術を用いた培養肉の製造、そして顧客に提供するところまでを一貫しておこなうことを目指しています(参照:ダイバースファーム株式会社)。

島津製作所

最後に、島津製作所です。同社は大阪大学大学院工学研究科と共同で、培養肉を自動で製造するマシンを試作しています。このマシンの狙いは3Dバイオプリント技術によって細胞の繊維を重ねる地道な作業を自動化し、生産スピードの向上を図ることです。また、2023年3月には大阪大学やいくつかの企業とともに培養肉未来創造コンソーシアムを設立しました。ここでは、3Dバイオプリントを用いた食用の培養肉を製造する技術を社会実装するための取り組みをおこなっています(参照:2023年度-2025年度 中期経営計画 p.45、75|株式会社島津製作所)。

まとめ

培養肉についての解説、いかがでしたでしょうか。この記事を通じて、培養肉の基本的な知識やその可能性、そして課題について理解を深めていただけたなら幸いです。

培養肉は、食料生産の新たな選択肢として注目されています。特に、人口増加や環境問題に対する解決策として期待されていますね。培養肉の生産は、従来の畜産に比べて土地や水の使用量が少なく、持続可能な食料供給の一助となる可能性があります。

一方で、培養肉にはまだ多くの課題が残されています。コストの高さや製造に必要なエネルギー、そしてウシ胎児血清の使用など、解決すべき問題は山積みです。しかし、これらの課題に対しても、各国の研究者や企業が日夜努力を重ねています。

日本でも、日清食品ホールディングスやダイバースファーム、島津製作所などが培養肉の研究に取り組んでいます。これらの企業の努力が実を結び、私たちの食卓に培養肉が並ぶ日もそう遠くないかもしれません。

培養肉が普及することで、私たちの食生活や環境にどのような変化がもたらされるのか、今後の展開が非常に楽しみですね。新しい技術や食品に対しては、どうしても懐疑的になることもあるでしょう。しかし、情報を正しく理解し、前向きに受け入れる姿勢が大切です。

この記事が、あなたの培養肉に対する理解を深める一助となれば幸いです。これからも新しい情報や技術に対して、興味を持ち続けてくださいね。食の未来は、私たち一人ひとりの選択にかかっています。

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この記事を書いた人

経営者、JSA認定シニアソムリエ。高級レストランの運営、マーケティング、人材育成を10年。その後、水産の仕事に携わることで、食の源流から、加工、流通、お客様の口に入るまで一連の食の在り方を学ぶ。持続可能で、自然と共生しながら人を幸せにする「食」を追求。現在、自社植物工場と、渓流魚養殖、レストランを計画中。ぞろ屋合同会社代表。

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