世界で90万人以上の人が、飢餓の中でも最も深刻な「飢きん」に近い状態といわれ、食糧危機が深刻化しています。
そんな中で、食資源の確保として重要視されているのが「養殖」です。
今回は、食糧危機で養殖が重要視される理由や、養殖における食糧危機対策の課題について解説します。
さらに、食糧危機対策で注目を集める「陸上養殖」についてもお話するので、参考にしてみてください。
食糧危機で養殖が重要視される理由
食糧危機で養殖が重要視されている理由は、主に以下の2点が挙げられるでしょう。
- 食用魚介類の需要が高まっている
- 世界人口が増加している
水産庁が発表しているように、世界では1人当たりの食用魚介類の消費量が過去半世紀で約2倍に増加しており、今後も増加していくことが予想されています。
特に、魚介類を食べる習慣のあるアジアやオセアニア地域では、需要が大幅に高まっているのです。
また、世界人口は2030年に約85億人、2050年には約97億人まで増えるとされており、食料面の確保に向けて対策が考えられています。
水産資源には限りがあるため、これら2つの理由から養殖が重要視されているのです。
養殖における食糧危機対策の課題
食糧危機対策として養殖を行ううえで、2つの課題が考えられます。
- 魚類の疫病
- 飼料の確保
では、それぞれの課題についてお話していきましょう。
魚類の疫病
農林水産省の報告によると、養殖所の魚類の疫病における被害額は100億円程といわれています。
疫病の主な原因は、ウイルス・細菌・寄生虫であり、飼育環境の整備やワクチンの使用などで対策をしなければいけません。
適切な感染症対策のために、魚介類の免疫・生体防御反応について遺伝子レベルで解析する手法の開発を行なっている団体もあります。
飼料の確保
養殖における課題としては、飼料の確保も挙げられるでしょう。
一般的に、養殖の飼料では魚粉が使われていますが、1kgの養殖魚を生産するために4~5kgもの魚粉が必要なため、動物タンパク質の収支としてはマイナスとされています。
後ほどご紹介する養殖に取り組んでいる団体「SATREPS」は、大豆やトウモロコシなどを養殖に与えて経過を観察し、魚粉に代わる新しい飼料の確保に向けて開発を進めているそうです。
食糧危機対策で注目を集める「陸上養殖」!3つのメリット
食糧危機対策として注目されている陸上養殖。
陸上に人工的に創設した環境のもとで養殖を行うこちらの方法では、以下のようなメリットがあります。
- 養殖する場所を選ばない
- 海鮮汚染のリスクを防げる
- 健康的な魚を育てられる
では、陸上養殖における3つのメリットについてお話していきましょう。
養殖する場所を選ばない
陸上養殖はどんな場所でも実践することができます。
地方の空き地や耕作放棄地など、場所を選ばずに養殖を始められるからこそ、自由度の高い事業運営が可能です。
今まで魚介類とは縁のなかった地域でもスタートできるため、新たな特産物や地元の活性化につながることも。
海の近くではなく、市街地の近くで養殖すれば、輸送コストや人件費の削減も見込めますね。
海鮮汚染のリスクを防げる
陸上養殖の「閉鎖循環式」と呼ばれる方法では、使用した水を浄化して再利用しながら育てるため、海鮮汚染のリスクを防げます。
養殖の際に排出されるエサの残骸は、海に流すことで海鮮汚染にもつながりますが、「閉鎖循環式」なら残骸を取り出して処分できるので安心です。
現在、海鮮汚染によって生態系のバランスが崩れ、魚介類の数が減るなどの問題も指摘されているため、海鮮汚染を避けられる陸上養殖は食糧危機対策としても有効ですね。
健康的な魚を育てられる
陸上養殖の「閉鎖循環式」では、疫病にかからない健康的な魚を育てることも可能です。
これは、外部の水を使用せずに養殖するため、疫病の原因となる細菌やウイルス、汚染物質などの混入を防げるから。
魚類が疫病にかかると、大きな被害を被ることになることから、安全に養殖を運営していきたい方はおすすめです。
食糧危機対策における「陸上養殖」のデメリット
様々なメリットのある陸上養殖ですが、実際に運用する前に以下2つのデメリットも押さえておきましょう。
- 施設を設置する必要がある
- 機械の故障時に全滅の可能性も
では、陸上養殖のデメリット2つを解説します。
施設を設置する必要がある
陸上養殖は、陸上に養殖できる水槽などの施設を設置しなければいけないため、初期費用やランニングコストはある程度かかります。
ベン・ベルトン氏(米ミシガン州立大学准教授)らによると、陸上養殖はコストを抑えやすいメリットがあるとか。
陸上養殖のメインとなる種群であるコイやナマズなどは、動物性たんぱく質の飼料を必要としないため、お米や落花生などの安価な飼料で育てられます。
海面で行う養殖と異なり、小規模から始められるのでイニシャルコストの削減も可能でしょう。
自然災害などの環境変化にも対応できることから、食糧危機を見据えた養殖産業で成果を出したい方にぴったりです。
機械の故障時に全滅の可能性も
陸上養殖を行ううえで、どうしても水温調節やろ過をするための機械が必要なため、これらが故障してしまったときは全滅の可能性もあります。
万が一の場合を考えて、定期的な点検を行っておきましょう。
食糧危機対策!養殖に取り組んでいる団体
食糧危機対策の1つとして注目されている養殖。
こちらでは、そんな養殖に取り組んでいる3つの団体をご紹介していきます。
岡本 信明氏らの団体
東京海洋大学 特任教授の岡本 信明氏らは、タイの研究者と共同で、養殖における研究を重ねていきました。
環境の変化に強いなどの優良品種をつくることや、感染症を防ぐための効果的なワクチン開発など、様々な研究に挑戦したそうです。
日本とタイの2ヵ国で行ったこちらの研究は、次なる研究「タイ原産魚介類の養殖」を実施するきっかけへとつながりました。
島村 雅晴らの団体
懐石料理店「雲鶴」の店主・島村 雅晴氏は、近畿大学の澤田好史教授らとタッグを組んで、「アイゴ」という魚の養殖を行なっています。
アイゴは、魚の中でも珍しく海藻などを好んで食べる品種のため、魚粉ではなく廃棄予定の野菜で育てられるかを研究しているとか。
結果、独特の臭みが消え、店舗で提供する見通しも立っているそうです。
ソウルオブジャパン株式会社
ソウルオブジャパン株式会社は、三重県津市でアトランティックサーモンの陸上養殖システムを建設しました。
延床面積は約70,000㎡と東京ドームの1.5倍の広さで、水道水からつくった人工海水をろ過しながらアトランティックサーモンを育てます。
養殖しやすいサーモンは、食糧危機対策の切り札と飲食業界で噂されてきましたが、今回の養殖では漁獲量はもちろん味の質も高まるとされていますよ。
まとめ
今回は、食糧危機で養殖が重要視される理由や、養殖における食糧危機対策の課題について解説しました。
現在、食用魚介類の需要が高まっているうえ、世界人口の増加も見込まれているため、食糧危機対策として養殖が注目されています。
養殖について興味のある方は、大きなメリットのある「陸上養殖」を検討してみてください。