なぜ「昆虫食」が注目されるのか?ビジネスチャンスとしての昆虫食の可能性

なぜ「昆虫食」が注目されるのか?ビジネスチャンスとしての昆虫食の可能性

率直に言って、昆虫食はビジネスチャンスになるのか?

2013年に国連が「昆虫食」を推奨してから世界的に認知が広まりましたが、日本国内では、2013→2023年、キーワードの検索数が約15倍アップと急激な伸びを見せています。

社会的な問題をはらむ繊細な問題であるだけに、ビジネスチャンスとして可能性があるのか、疑問に思う方も多いでしょう。

『食糧危機ドットコム』では、ビジネスを切り開く経営者や食糧危機に関連する専門家の監修を経て、数多くの記事を公開してきました。

ここでは、なぜ「昆虫食」がここまで注目をあつめているのかという理由から、ビジネスチャンスとしての昆虫食の可能性を独自の視点で探っています。

ビジネスチャンスとはそもそも、満たされていないニーズ、顕在化されていないニーズに対して、新たに応えていく「機会」を創り出すということ。

食糧危機を漠然と憂えるだけでなく、「昆虫食」を通して社会的な課題を解決すると同時に、ビジネスとしての可能性を探りたい方は、ぜひ最後まで読んでください。

目次

昆虫食が世界的に注目される背景に「食糧危機」

昆虫食が世界的に注目されるようになった背景に、食糧危機があります。

現在、地球上の人口は約78億人(2023年)。今後も増加が続くと予測されています。一方、土地や水、エネルギーなどの資源は限られており、さらに気候変動の影響によって農作物の収量も減少するといわれます。こうした要因により、食糧不足が世界的な課題となり、人類は新たな食糧源を模索していました。

そこで注目されたのが、昆虫食です。昆虫は、肉類に比べて生産効率が高く、飼育や栽培に必要な資源が少なくて済みます。また、温室効果ガスの排出量も少ないため、持続可能な食糧源として期待されるようになりました。栄養価も高いので、低コストでバランスの取れた食事が可能となります。

2013年に国連食糧農業機関(FAO)が「昆虫食」を推奨

2013年に国連食糧農業機関(FAO)が「昆虫食」を推奨したのも、注目されるようになったきっかけの1つでしょう。

内閣府食品安全委員会のHPによると、国連食糧農業機関(FAO)がオランダのヴァーヘニンゲン大学と共同で行った調査研究で、昆虫類は栄養が豊富だとわかったとのこと。

昆虫類のほとんどは、タンパク質や良質な脂肪を多く含んでいるうえ、カルシウム・鉄分・亜鉛の量も多いそうです。

中でも鉄分が含まれる量は、牛肉の場合100g当たり6mgであるのに対して、イナゴ類では100g当たり8〜20mgだとか。

昆虫は食品としてまだ開発されていない部分が多く、昆虫の飼育が産業化されることで家畜用の飼料としても使えるため、飼料のコスト削減にもつながるとされています。

「昆虫食」は2030年頃に想定されるタンパク質危機を解決する

世界の人口は現在約78億人ですが、2030年頃には90億人になると予想されています。

このままだとタンパク質危機が想定されていることからも、昆虫食が解決策になると考えられているのです。

人口の増加に伴い、人のタンパク質源となる食肉を増やしていかないといけない一方で、牛・豚・鶏などの飼育をするには飼料となる穀物を増産していくことも必要です。

穀物を増産するには、育てるために土地も増やさなくてはいけません。

しかし、このまま土地の開拓を続けていくと、地球の自然環境が脅かされるのではないかと危惧されているのです。

つまり、「増え続ける人口に対してタンパク質をどう手に入れるか」が重要な課題になるわけですね。

実は、昆虫食はタンパク質を多く含むだけでなく、生産効率が良く環境にも優しいとされています。

例えば、牛でタンパク質を1kg生産するのには飼料が10kg必要ですが、コオロギであれば1.7kgの飼料で済みます。(新潟食料農業大学のHPより)

また、1ヶ月で卵から成虫になるため、生産効率がとても良い食糧になるのです。

コオロギの飼育なら、規格外の農作物や食品工場から出る食べ物の残りかすが飼料にできるので、フードロス対策にもなり、環境に優しいといえます。

このようにメリットが多い昆虫食であれば、2030年頃に想定されるタンパク質危機を解決できると期待されているのです。

昆虫食は「食糧危機」に備える一手になるのか?

昆虫食は「食糧危機」に備える一手になるのでしょうか。

食糧危機に対して、昆虫食が救いの手になり得る2つの事実をご紹介していきます。

昆虫食は肉や魚に並ぶタンパク源になりうることは事実

昆虫食は肉や魚に並ぶタンパク源になりうることは事実です。

NHKのHPによると、昆虫は、牛・豚・鶏などの食肉と同じく2割ほどのタンパク質を含んでおり、さらに乾燥させるとタンパク質が6〜7割にもなるそうです。

昆虫食を美食に高めた高級レストランが誕生

東京・日本橋には、ANTCICADAという高級レストランがあります。

ここでは、コオロギから出汁を取った「コオロギラーメン」や「コオロギスナック」、「コオロギビール」など、高品質な昆虫を使って作られた美食が提供されているのです。

昆虫食の魅力を探究するチームが開いたお店で、コンセプトは「地球を愛し、探究するレストラン」とのこと。

昆虫食を美食に高めて提供するという、ANTCICADAのようなレストランが生まれていることからも、昆虫食がこれからさらに広まっていくという期待ができますね。

日本でも世界でも「昆虫食」は昔から親しまれていた

意外に思う方もいらっしゃるかと思いますが、日本でも世界でも「昆虫食」は昔から親しまれています。

こちらでは、日本と世界でどのように昆虫が食べられているのか解説していきます。

日本では縄文時代から昆虫食が食べられていた

日本では縄文時代から昆虫食が食べられていたことが、遺物の調査によってわかっています。

実は、大正時代でも、日本の55%の地域で昆虫が食べられていたそうで、中でも多く口にされていたのはカイコ・イナゴ・ハチなど。

特に信州では、周りを山に囲まれていて冬に外の地域に出ることが難しく、食糧の調達が困難だったため、昆虫は貴重な食べ物だったそうです。

昆虫食の文化が一般的でなくなってしまったのは、明治以降欧米の食文化を取り入れたことや、スーパーマーケットが普及したことなどが影響しているといわれています。

世界では20億人、1900種の昆虫が食べられている

世界では、20億人以上が1900種にも及ぶ昆虫を食べています。

その中でも多く消費されているのは、甲虫類(31%)・ケムシ(18%)・ハチ及びアリ(14%)・イナゴなど(13%)です。

栄養が豊富な昆虫食だからこそ、ここまで普及しているといえるでしょう。

特に、昆虫食が多く食べられているのはアジア・中南米・アフリカだといいます。

中国では2000年以上も前から薬として昆虫を食べていたそうですし、メキシコでは現在でもバッタのスナックが販売されています。

アフリカでは、アリやイモムシなど様々な昆虫食が普及していて、都市部でも多く食べられているようです。

「昆虫食」が日本の食卓に普及するための3つの課題

「昆虫食」が日本の食卓に普及するための3つの課題は、以下の通りです。

  1. 「昆虫食」の安全性を担保する
  2. 「昆虫食」が解決する社会的問題を認知する
  3. 「昆虫食」の感情的抵抗感を和らげる

では、昆虫食が普及するための3つの課題についてそれぞれ解説します。

「昆虫食」の安全性を担保する

「昆虫食」の安全性を担保することは、日本の食卓に普及させるために必要なことでしょう。

内閣府食品安全委員会のHPでも、他の食品と同じように人の健康に影響を及ぼす可能性がある細菌や微生物を抑える必要があるといわれています。

昆虫食の安全性を担保するためには、以下の3つが大切です。

  • 生産・加工などを衛生的に行う
  • 食品安全基準を昆虫食へ適用させる
  • 信頼を得るための昆虫食の品質管理基準を定める

消費者から見て昆虫食が衛生的かどうか疑わしい状態では、普及するのも難しいでしょう。

きちんとした安全基準に基づいて衛生的に品質管理されていると証明されれば、昆虫食に対する不安を取り除き、安全に食べることができますね。

「昆虫食」が解決する社会的問題を認知する

「昆虫食」が解決する社会的問題が認知されるのも、普及のためには重要なことです。

昆虫食が改善できると期待される社会的問題は、以下の3つなどがあります。

  • タンパク質危機
  • フードロス
  • 地球温暖化

先に述べたタンパク質危機やフードロスについても解決が期待されていますが、他にも昆虫食の普及で牛が排出するメタンガスを減らせるとも想定されています。

また、昆虫の飼料として食品ロスを使用することで、食品廃棄物を燃やすときのCO2を減らせると期待されています。

メタンガスやCO2は地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスなので、昆虫食は社会問題に対して良い影響を及ぼすことができるでしょう。

このような社会に対する多くのメリットが認知されることにより、人々の昆虫食に対する関心が深まり、「食べてみようかな」といった興味につながります。

「昆虫食」の感情的抵抗感を和らげる

「昆虫食」の感情的抵抗感を和らげるのも、広く普及させるために大切なことです。

ポーランドの調査では、回答者の70%以上が昆虫食を拒む要因として、嫌悪感を挙げたそうです。(『昆虫食受容に関する心理学的研究の動向と展望』より)

昆虫食に対する感情的抵抗感は、見た目が大きな理由でしょう。

味が美味しいかどうかの前に、見た目は重要ですよね。

最近では、抵抗感を和らげるために、昆虫をパウダーにして食品に加工したコオロギせんべいやコオロギチョコといった商品が販売されています。

見た目は普通のせんべいやチョコのお菓子と変わらないため、嫌悪感は少なく済み、昆虫食を普及させる最初の1歩になるかもしれません。

ビジネスチャンスとしての「昆虫食」

ビジネスチャンスとしての「昆虫食」が注目されています。

昆虫食のニーズが高まっているといえる理由として、以下2つの事実があります。

  1. 「昆虫食」のキーワード検索数は10年で約15倍に
  2. 世界的なニーズや認知の高まりに対して「昆虫食」の供給が少ない

では、上記2つについてそれぞれ解説していきます。

「昆虫食」のキーワード検索数は10年で約15倍に!

2013年1月〜2023年1月の10年間に、「昆虫食」の検索数がおよそ15倍にアップしています。

これは、2013年の国際連合食料産業機構(FAO)が昆虫食を推奨する内容の報告書を発表したことがきっかけといえるでしょう。

10年間で世界から大きな注目を集め続けている昆虫食ですが、今後さらに注目されることになるかもしれません。

なぜなら、昆虫食はタンパク質危機など、これから起こりうる様々な社会問題への懸念と密接につながっているからです。

昆虫食がどのように社会問題を解決していくかによっては、今後私たちの想像以上に注目されることも期待できるでしょう。

世界的なニーズや認知の高まりに対して「昆虫食」の供給が少ない

先に述べた通り世界的なニーズや認知が高まっている「昆虫食」ですが、供給量がまだまだ少ない状況にあります。

農林水産省の資料でも、世界の食糧需要は、2050年に2010年比で1.7倍になると想定され、タンパク質源といったニーズへの対応が必要だとされています。

しかし、タンパク質危機で挙げられる問題のように、地球上の自然環境を保ち続けることには大きな危機が迫っているため、昆虫食のように持続可能な食糧が求められているのです。

生産効率が良く環境に優しい食糧である昆虫食は、これからどのようにニーズを満たせるような進化をしていくのでしょうか。

まとめ

今回は、なぜ「昆虫食」が世界から注目されているのかについて解説しました。

2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨してから大きな注目を集めていますが、それは社会問題を解決する糸口として昆虫食が認められ始めているからでしょう。

日本でもまだまだ普及していない昆虫食が、安全性の担保や感情的抵抗といった問題を解決し、どのように生産が拡大されていくのか注目ですね。

また、ニーズが拡大している昆虫食はこれからもビジネスチャンスとして期待できる分野だと考えられるでしょう。

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この記事を書いた人

経営者、JSA認定シニアソムリエ。高級レストランの運営、マーケティング、人材育成を10年。その後、水産の仕事に携わることで、食の源流から、加工、流通、お客様の口に入るまで一連の食の在り方を学ぶ。持続可能で、自然と共生しながら人を幸せにする「食」を追求。現在、自社植物工場と、渓流魚養殖、レストランを計画中。ぞろ屋合同会社代表。

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